春秋 2020/5/28付▼薬物捜査にあたる警察幹部に、こんなエピソードを聞いたことがある。海外の関係機関から「追っている人物が日本に入国する。携帯電話の傍受を引き継いでほしい」と頼まれたのだという。だが日本は海外に比べて、通信傍受が許される要件が厳しい。結果、断った。▼なぜできないのかと問われて、「憲法で通信の秘密が保障されている」と答えた。すると先方は「原則論を言っている場合か。ここで見逃せば薬物の被害者が増えるだけだぞ」。大原則はもちろん守る。ただその基準は時代とともに変わりうるし、捜査という公益と比較して柔軟に考えるべきでは。そんな嘆き節であった。▼出演したテレビ番組をめぐり、SNS(交流サイト)で誹謗(ひぼう)中傷を受けていた若い女子プロレスラーが亡くなった。自殺の可能性が高いという。自分は安全な場所にいながら、一生懸命やっている人を匿名で攻撃する。こんな理不尽はない。総務省や自民党は発信した人物を特定しやすくなるよう、法整備を目指す構えだ。▼こうした問題は通信の秘密や表現の自由といった大原則と密接にからみ、議論が迷走してしまいがちだ。だからといって安直に発信者を特定できる制度にして、批判的な書き込みをする人を公人や企業が探し回るような社会になっては困る。同じ悲しみが繰り返されないようSNS時代の新しい基準作りに知恵を絞りたい。
先日鑑賞した『いぬやしき』という映画は、ネットで書き込みされた不思議なパワーをつけた弱者が、書き込んだ人を特定し、モニター越しに無差別殺戮をする、というドラマだった。このような事態に国家権力は敏感だ。制度を設けて罰を作れば国が儲かるからだ。
冒頭の鈴木幸一氏が企業して、官僚と戦っていた頃、ヤマト運輸の小倉昌男氏から激励の手紙が届いたという。小倉昌男氏の『経営学』は名著である。小倉氏も強い権力と戦ってきた人だ。
こうした事態から表現の自由が閉ざされ、こうした権力との闘いが始まる。そんな揺り戻しが世界で幾度となく繰り返される。世界は常にバランスを保とうと揺れているのである。あまり揺れすぎると『めまい』を起こしそうだが・・・
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