村上龍さんの長編小説は男性からみてとてもエキサイティングな硬派な作品をよく読んだ。『愛と青春のファシズム』とか『希望の国のエクソダス』など、ある人物あるいはある組織が強大な力を得て肥大化する。この非現実的な状態を極めてリアルに論証立てて展開する物語に興奮しました。
【中古】愛と幻想のファシズム 上 /講談社/村上龍 (文庫)
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村上龍さんがとくに積極的に関与したのは”経済”で、自分も経済学を専攻していた立場もあって、その実現可能性の有無について奮い立たせるものがあるのだ。
そして今回読んだこの本も大いに経済に関わる物語である。2011年、文藝春秋に発刊された。
西崎という投資コンサルティングが、五反田の風俗嬢と出会う。そして彼女が一型糖尿病患者であることが二人の不倫関係を複雑に醸成させてゆく。実は自分の身内にも同様な患者を抱えていて、小説にも出てくる注射器を常時携帯している。そんなこともあって、この本を読もうという感情にひかれたのである。
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この西崎という男は、バツイチではあるものの、現在の家庭を円満に維持しつつも、主人公の四条香奈子のほか、もう一人の風俗嬢や一線で活躍する女性アナウンサーとも浮名をはせている。これらの女性遍歴に陥る理由として、彼の母親が教師で普段家にいなかった、という母親不在が示される。これは小説に時々出てくることで土居健郎先生が夏目漱石を分析してこの指摘をしている、村上龍との関係は定かではないが、日本文学の根底には母親不在が時代ととも蓋然性を高めている矛盾を示す場合がおおい。
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かたやバブル崩壊後の経済でファンドのノウハウを生かし、多くの投資家やベンチャーの実情や内幕をくまなく網羅している点が魅力的だ。経済小説としての切れ味は相変わらず見事だ。
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だが感想としては残念ながら、主人公の風俗嬢にはそれほどの魅力を感じなかった。村上龍らしい経済小説とは全く別の世界の恋愛物語を同時並行で進めるという奇抜なチャレンジをしているのは理解できるが、人物に魅力がないから感動できない。これまでの村上龍さんの小説の中では最も乗れない小説であった。
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しかしこれはこちらがマヒしているせいかもしれない。このところビジネス本とか資格勉強などに力を注ぎすぎて文学的な素養を失ってしまったかもしれない。映画を見ていてもそう思うことがある。
それと、この実年齢の近い西崎という主人公が、自分の生きる世界とはまるで違う、大きな隔たりがあることで気持ち的に乗れなかったのも理由かもしれない。
希望の国のエクソダス (文春文庫) [ 村上龍 ]
話題は異なるのだが、かつてブログでコメントのやり取りをしていた方が突然亡くなったことがある。
ご主人がコメントをして告知されたのだが、この小説の冒頭が同じ感じで始まる。
この”亡くなった”という事実をあらかじめ読者は与件として与えられていて”死”という事実に向かってドラマがカウントダウンしていゆく過程が描かれている点はまるでサスペンスだ。
胸を締め付けられるような最後のほうの展開に息を吞む。
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